【自治体ご担当者様へ】管轄内のアスベスト調査不備。「知らなかった」では済まない行政の責任とは

自治体(市役所)で、建築指導、環境保全、労働安全衛生などを担当されている皆様、日々の公務、誠にお疲れ様です。 八王子市を拠点にアスベスト調査・労働安全衛生コンサルティングを行っております、安全環境エンジニアリング株式会社です。

近年、アスベスト(石綿)に関する法規制(大気汚染防止法、石綿障害予防規則)が大幅に強化され、解体・改修工事における「事前調査の実施」と「自治体への報告」が厳格に義務付けられました。

これにより、自治体(市役所)の皆様が、事業者の報告を受理し、現場を監視・指導する役割は、かつてないほど重要になっています。

しかし、もし管轄エリア内で「事前調査が行われていない疑いがある工事」や「不適切な報告」を、多忙さゆえに、あるいは「事業者の問題だから」と見過ごしてしまった場合、どのような事態が想定されるでしょうか。

今回は、「行政の不作為」が招きうる法的・社会的な責任について、専門家の視点から解説します。


1. 法令が定める自治体(市役所)の「権限」と「責務」

まず、大気汚染防止法(大防法)は、アスベストの飛散防止に関して、都道府県および(権限移譲された)市に対し、非常に重い責務と強い権限を与えています。

  • 報告の受理: 事業者からの「事前調査結果の報告」を受理する窓口(大防法 第18条の17)。
  • 立入検査: アスベスト飛散の恐れがあると認める場合、工事現場に立ち入り、建材や図面を検査する権限(大防法 第26条)。
  • 改善命令: 調査方法や飛散防止措置が不適切(基準不適合)と認める場合、事業者に対し改善を命令する権限(大防法 第18条の19)。
  • 緊急時の措置命令: アスベストが飛散し、人の健康に被害が生じる恐れがある場合、工事の即時停止などを命令する権限。

これらは単なる「権限」であると同時に、「住民の生命と健康を守るために、適切に行使されるべき責務」でもあります。


2.「調査不備」を放置した場合に問われる「3つの責任」

担当者様が、住民からの通報や、報告書の不備などで「調査が行われていない(不十分である)可能性」を認識しながら、適切な対応(立入検査や指導)を取らなかった場合、以下の深刻な責任問題に発展するリスクがあります。

① 最悪の事態:住民への「健康被害」の発生

行政が違法状態を放置した結果、アスベストが飛散し、近隣住民がそれを吸引してしまった場合、取り返しのつかない「健康被害(中皮腫や肺がん)」の原因を作ったことになります。 これは、行政が最も避けなければならない事態です。

② 法的責任:住民からの「国家賠償請求」

もし健康被害や、アスベストによる土壌・家屋の汚染(=資産的損害)が発生した場合、被害を受けた住民は、工事を行った事業者だけでなく、「行政(市)」に対しても損害賠償を請求する可能性があります。

これが「国家賠償法 第1条(公権力の行使)」に基づく請求です。

「公務員が、その職務を行うについて...違法に他人に損害を加えたとき」

市役所の担当者が、違法な工事(調査不備)を知りながら、あるいは「知ることができたはず」なのに立入検査や改善命令といった「なすべき職務を行わなかった(=不作為)」ことが違法であると裁判所に認定された場合、自治体は莫大な賠償責任を負うことになります。

③ 行政・個人としての責任

  • 自治体(市)の信用の失墜: 「あの市役所は違法工事を放置する」「住民の健康より事業者を優先する」というレッテルは、行政に対する信頼を根本から破壊します。マスメディアによる追及も免れません。
  • 担当者個人の「懲戒処分」: 市が賠償責任を負ったり、社会的な信用を著しく傷つけたりした場合、その原因を作った職員として、内部規定に基づく懲戒処分(戒告、減給、停職など)の対象となる可能性は十分にあります。

3.「知らなかった」は通用しない時代へ

2022年4月から「事前調査結果の報告」が義務化され、自治体の皆様の手元には、かつてないほど多くの情報(=リスク情報)が集まるようになりました。 情報が集まるということは、「知るべき立場にある」という責任が明確になったことを意味します。

「報告書がシステムに上がってきたからOK」ではなく、 「報告がない解体工事はないか?」 「この報告内容(資格者名、分析の有無)は適正か?」 といった一歩踏み込んだ監視が、行政の「不作為」を問われないために不可欠となっています。


まとめ:厳格な監視は「住民」と「行政自身」を守る砦

アスベスト調査の不備を見逃すことは、住民を危険にさらし、最終的には行政の信頼と担当者様の立場をも危うくします。

行政ご担当者様におかれましても、専門家の知見が必要な場合や、事業者への指導方法でご不明な点があれば、お気軽にご相談ください。 私たちは、安全な社会環境の実現に向け、行政の皆様とも連携していきたいと考えております。